『読書効果の科学: 読書の“穏やかな”力を活かす3原則』
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さまざまな情報メディアが溢れる現代、「本」の存在意義は何なのか? 読書が有益にはたらくと言われている言葉・人格・精神的健康・身体的健康・学カ・仕事(収入)の6要素について、その効果を科学的に評価。そこに確かに存在するが決して万能ではなく時として弊害も伴う「読書の力」をありのままに描き出す。読書の力をうまく利用するための3つの原則も提案。教育者、保護者、本好きの方、本が苦手な方、すべての人に送る処方箋。
帯
書籍文化の未来をかけた忖度なしの読書効果論
学力、収入、健康、言語力、寿命、仕事、人格
ほんとに効果あるの?
どんな読み方でもいいの?
目次
はじめに──読書は社会にとって必要か?
第Ⅰ部 読書の力を正しく知るために
第1章 読書研究を見る目を養う
1.1 専門用語について──相関係数・メタ分析・横断/縦断調査
1.2 「読書行動」の概念について──量的側面と質的側面の考慮で研究の切り口は膨大になる
1.3 読書行動の測定法──読書をどうやって測るべきなのか
第2章 誰がどれくらい読んでいるのか
2.1 児童・生徒の読書活動──読書離れは起きていないが読書活動は二極化している
2.2 大学生・成人の読書活動──日本はあまり読書に熱心ではないが二極化はここにもある
2.3 3原則との対応関係──読書行動への親和性の個人差は早期から見られる
第Ⅱ部 読書効果についての科学的研究知見
第3章 読書は言語力を伸ばすか
3.1 読書は語彙力を伸ばす
3.2 読書は文章理解力を高める
3.3 読みのマタイ効果は存在するか?
3.4 読書は「書く力」も高める
3.5 3原則との対応関係──特に語彙力は気長に構えた読書でじっくりと
第4章 読書は人格を高めるか
4.1 読書する性格とは
4.2 物語の読書は「他者の気持ちを推し量る」力を高める
4.3 物語の読書は「良い行い」を増やす……か?
4.4 物語が文化・社会を作った
4.5 3原則との対応関係──物語は現実の補完・拡張と心得るべし
第5章 読書は心身の健康に寄与するか
5.1 読書は思春期の心理・行動的適応にプラスにもマイナスにもなる
5.2 「健全な」読書は高齢期の知能を維持し長寿に寄与する
5.3 日本人データにおけるマイナス効果について──筆者自身に浴びせられた強烈な冷や水
5.4 3原則との対応関係──自分にとって無理のないペースで気長に続けよう
第6章 読書は学力や収入を伸ばすか
6.1 「ほどほどの読書」をする児童・生徒が最も学力が高い
6.2 縦断調査でも「読書は学力を高める」という結果が得られている
6.3 読書と学力の間に存在する多様な要因
6.4 読書と収入(仕事)には正の相関関係はある
6.5 条件が整ったときに読書は収入を伸ばす
6.6 読書は学力・収入にどれほどの効果を持つのか──長期的視野に立てば読書も選択肢の一つ
6.7 さらなる背景因子「遺伝」
6.8 3原則との対応関係──成果はすぐには現れない。気長に構えた読書を
第Ⅲ部 読書とうまく付き合うために
第7章 読書の行動遺伝学
7.1 行動遺伝学と双生児法
7.2 読書行動さえも遺伝によって影響されている
7.3 遺伝は環境に影響する──遺伝と環境の相互作用
7.4 読書行動に純粋な共有環境の影響は存在するのか──日本における読書行動についての双生児研究
7.5 遺伝の影響はある──冷静に考えれば,それは当たり前のこと
第8章 読書効果をうまく利用するために
8.1 行動遺伝学が問いかける疑問
8.2 【原則1】 平均的には効果は穏やか。気長に気楽に。
8.3 【原則2】「 読みすぎ」は弊害を生む。目安は1日30分~1時間。
8.4 【原則3】 個人差は大きい。読書そのものが合わない人もいる。
8.5 本書から提案できる読書教育とは
おわりに──読書の“穏やかな”力を享受していくために
引用文献
索引
はじめに──読書は社会にとって必要か?
読書についての研究結果が蓄積され、ようやく花咲いてきた感がある(1970年頃から)→それを知ってもらいたい
読書効果の科学的知見に正面から取り組んだ唯一の書籍、スティーブン・クラッシェン『The Power of Reading:Insights from the Reseach』。初版が193年、改訂版が2004年だが邦訳されているのは初版だけ(『読書はパワー』)
このタイトルに「穏やかな」という文言が本書では付与されている
本書は、小学校の先生と保護者の方向けに書いた
中心となるメッセージ
「読書は有益だからもっと児童に本を読ませましょう!」というPRの繰り返し、ではない
「読書には知られている以上の効果があるが、万能でもなければ即効性があるわけでもない。万人が読書習慣を持てるわけではないことも分かったし、大人も児童も肩の力を抜いて、本を読んだり読まなかったりしよう。でも、時にはどっぷりと読書にハマッて、驚くような効果を挙げる児童もいる。期待しすぎずに、楽しみに待っていよう」
三方よしな考え方
児童の個性を尊重しつつ
保護者の肩から「児童に本を読ませなければ」という重荷を下ろし
社会(教育政策)は技術革新の中でも読書を残す意義を見出す
「読書しなければならない」という思い込みからの開放
そもそも「読書」は消えてなくなるのでは?
本書における「読書」の定義
文字中心の媒体を通して、物語や、あるい程度の分量を持つ整理された情報を取り込むプロセス
紙媒体でも電子媒体でもいいが、映画でもなければ動画でもないし、授業や講義でもないし、VRでの情報伝達でも、オーディオブックでも、写真やイラストを観賞することが目的のものでもない。
平安時代から日本人の読書はどんどん拡大(一般化)していく流れにあったが、現状はどうか
読書には負荷が大きい(たとえば子育てにおける絵本の読み聞かせとYouTubeの動画)
そんな状況にあって、読書の意義は残るのか?
言葉、人格、精神的健康、身体的健康、学力、仕事(収入)についての6つの効果がある
読書は疲れる、しんどい→だからこそそれが(知的)トレーニングになっているのではないか
「読書効果が実世界において効率的に発揮されるための3つの原則」を提示する
「しんどい」のコストと、読書効果のバランスが取れるような読書の運用をするための三箇条
→読書効果をうまく利用するための3原則
原則1 平均的には効果は穏やか。気長に気楽に。
原則2 読書の「しすぎ」は弊害を生む。目安は1日30分から1時間。
原則3 個人差は大きい。読書そのものが合わない人もいる。
「読書という文化は不滅である」と主張するわけではない
「教育や自己成長の手段として、読書には他に替えがたい意義があるのであれば、意義に応じた規模で残すべきだ。もしも意義がないというなら、技術革新の中でスパッと散ってしまえ」と著者は思っている。
第Ⅰ部 読書の力を正しく知るために
第1章 読書研究を見る目を養う
1-1 専門用語について
正の相関関係、負の相関関係、さらに強い相関関係と弱い相関関係
小学五年生の読書時間と語彙力、あるいは語彙力と文章理解力をサンプルに
一方の変数が分かれば、もう一方の変数の値がはっきり出来るような関係は「強い」相関関係
相関係数(最小値が-1、最大値が1)
小学五年生の読書時間と語彙力はr=0.23
r=0.23はどれくらい?
r=.089はどれくらい?
小学三年生の読書時間と読書冊数はr=0.46
成人男性の身長と体重
小学五年生の語彙力と文章理解力はr=0.69
珍しいほど高い相関
一卵性双生児の知能指数の相関関係 r=0.72
生活質問紙、2週間間隔で2回回答の得点の相関 r=0.84
「効果があったかなかったか」ではなく「効果の大きさはどれほどであったのか」
データの一般性への疑問
とはいえ、大きなデータの実験は難しい→メタ分析(meta-analysis)
さらなるメタ分析の「スーパーシンセシス」
たとえばジョン・ハッティ『教育の効果』
Molの2011年のメタ分析論文→「読書行動と語彙力の相関関係については、正の相関がある」
メタ分析の弱点
圧倒的なサンプルサイズに裏打ちされた「説得力」と、あまりにも強い「要約力」の副作用として、単純化された結論を安易に受け入れてしまう危険性がある
知見の単純化と、読み手の稚拙な利用を助長する
たとえば、Molのメタ分析では、99もの研究が集められた。そのうちの大半が欧米とオーストラリアなどの英語圏の研究。中国の研究が1つあるのみ。日本の研究はゼロ。それをそのまま(無批判に)日本児童に適用することはどうか?
だからといって、「日本の研究がないのだからまったく参考にならない」と考えるのもあまりに保守的。
メタ分析の結果を踏まえつつ、対象となる現象の性質や、最新の日本児童の知見についても参照し、両者を踏まえて自らの実践を考えるのがバランスの良い考え方ではないだろうか。
ピンポイントで効果の大きさを見積もるのではなく、範囲で読み取る姿勢が大切
研究デザインが相関係数に与える影響
研究デザイン(調査、介入、実験)
調査
横断調査
一回の調査ですべてのデータを集める
低コストで実施でき、たいはんの調査がこれ
因果的影響の方向はわからない
縦断調査(追跡調査)
複数回の調査で同一人物の変化を見る
疑似相関の可能性は残る
1-2 「読書行動」の概念について
用語の整理(最近まで、読諸研究における「読書」の概念的整理はなされていなかった)
読書行動
読書活動
読書時間
読書冊数
読書頻度
読書量
読書習慣
活字接触
蔵書数
https://gyazo.com/d8bc6ccd2b723f78d8a81334b75a0f17
https://gyazo.com/83d6ae5b997e9f27c63ef33ef11927c4
1-3 読書行動の測定法
読書日記法
質問紙法
再認テスト法(チェックリスト法とも呼ばれる)
第2章 誰がどれくらい読んでいるのか
ざっとしたまとめ
二極化起きている
読まない人は、ずっと読まない(大きな変化はない)
第Ⅱ部 読書効果についての科学的研究知見
第3章 読書は言語力を伸ばすか
3.1 読書は語彙力を伸ばす
伸ばすのは伸ばす。そもそも伸ばすに決まっている。
偶発的単語学習の実験
意図的に学ぼうとしない状態での学習
読書中に意図せず語彙を学ぶという現象は起こっている
平均的学習率は15%
未知語の締める割合が大きくなると、学習が阻害される。
内容を十分に理解可能なテキストを読むほど、未知語の学習率が高まる
読書による語彙学習について結論は出たと言えるか?
生態学的妥当性はどうか?
実験室外でも妥当なのか?
態度や選書について
選書の難しさ(先生がよい本を選べばよいというものではない)
Lee 「本人に合った本を選べるのは本人だけ」
「読書は語彙学習につながり得る」は真にしても、それはほぼ自明のこと
知りたいのは、「実生活上でも、読書は語彙学習につながっているのか」
縦断調査
親子調査データがそこそこ大規模(小学1年生から高校3年生まで)
語彙力スコアの分析
小学六年生の中央値→中学三年生の21.3%、高校三年生の12.8%はそれよりも低い
読書と語彙の関係性
読書は語彙力を伸ばす
語彙力が読書量を増やすという相互促進関係もある
どの程度の効果か?
効果としてはそこまで大きなものではなかったが、データが不十分である可能性も
介入研究
ある小学生の集団に、読書活動を含むサマースクールに参加してもらった。参加前後で読書活動に変化は生まれるか?
メタ分析の結果、介入は語彙力にプラスの影響を与えないことがわかった。
1. 研究に参加する児童のモチベーション(もともと言葉に問題を抱えている場合が多い)
2. 未知語テストばかりでなく、一般的な語彙力のテストも含まれていた
その他の研究でも、語彙力が低い児童においては、学習成果は小さいという結果が出ている
整理
読書をすることで、未知の単語の意味を知ることはできる。しかし、可能であることと、実際そうなっていることはイコールではない。読書を多くする児童・生徒の語彙力は高まっているが、劇的な向上が見られるわけではない。また、読書をするように児童・生徒に働き掛ければ効果があるかというと、まだわからない。
語彙はもともと膨大で、短期間で成績が上がるという性質を持っていない。語彙には「コツ」がない。
→原則1. 「平均的に効果は穏やか。気長に、気楽に」
3.2 読書は文章理解力を高める
読めば読むほど文章理解力が高まり、文章理解力が高まれば高まるほど、もっと読む
3.3 読みのマタイ効果は存在するか?
読みのマタイ効果
「豊かなものはより豊かになり、貧しいものはより貧しくなる」
読みの発達ラグモデル
文章理解力、単語の発音、読みの流暢性には、マタイ効果ではなく差が縮小している傾向が見られる
3.4 読書は「書く力」も高める
書く力:ある程度の長さの文章によって、文章作成者が自発的に考えたことや体験したことをより良く書く力」
論理的には十分ありえる
書くプロセスには、必然的に読むプロセスが含まれるから
書く力と読む力に共通の知識とスキル
メタ知識
領域知識
テキスト属性
手続き的知識
実証的には十分な証拠があると言い難い
書く力を評価するのは難しい
3.5 3原則との対応関係──特に語彙力は気長に構えた読書でじっくりと
第4章 読書は人格を高めるか
4.1 読書する性格とは
性格と人格「ある人の行動傾向を説明する心理的特性」よい状態があるものとないもの
神経症傾向、外向性、開放性、協調性、勤勉性
何が一番読書量に関係しているか?
4.2 物語の読書は「他者の気持ちを推し量る」力を高める
社会的認知
フィクションとの相関関係
因果は?
シミュレーション説
疑似体験をしている
人間心理ついての知識獲得説
性格説(これは否定されている)
SPaCENフレームワーク(Social Process and Content Entrained by Narrative)
社会的認知を促すのは「物語」
物語は社会を表現していなくてはいけない(社会と呼べるものを含んでいる必要がある)
物語は正確な社会的知識を含んでいること
「物語が社会的認知の学習のための理想的環境ではない」ことを強調している
即時フィードバックのある学習とは異なり、すぐに正解の分かるものではない。そのため、長期間、繰り返し、頻繁に物語に接した後にのみ現れるとも考えられる
→Mar 「筋肉を鍛える」というメタファー
「理解に社会認知を必要とする、複雑で深みのある登場人物を提示する文学小説」を読むと、「比較的ステレオタイプで分かりやすい登場人物を提示するポピュラー小説」を読むよりも効果がある。
4.3 物語の読書は「良い行い」を増やす……か?
向社会的行動は増えるのか?
4.4 物語が文化・社会を作った
4.5 3原則との対応関係──物語は現実の補完・拡張と心得るべし
第5章 読書は心身の健康に寄与するか
5.1 読書は思春期の心理・行動的適応にプラスにもマイナスにもなる
早期の楽しみのための読書はGood
「時間は週12時間の読書時間がベスト」
5.2 「健全な」読書は高齢期の知能を維持し長寿に寄与する
5.3 日本人データにおけるマイナス効果について──筆者自身に浴びせられた強烈な冷や水
5.4 3原則との対応関係──自分にとって無理のないペースで気長に続けよう
第6章 読書は学力や収入を伸ばすか
第7章 読書の行動遺伝学
「知能や性格は直接変化させられないが、読書をするかどうかは個人の裁量であるために、変化させることができる」という信念
additive genetic variance (A),
common (or shared) environmental factors (C),
specific (or nonshared) environmental factors plus measurement error (E).
読書行動も遺伝の影響を受ける。遺伝だけで100%説明されるものでもない
年齢が高くなるほど、遺伝率は高まる
第8章 読書効果をうまく利用するために
読書効果を有益なものにする提案が行われる
8.1 行動遺伝学が問いかける疑問
1. 一過性の変化ならばともかく、持続性の変化は、読書からは起こり得ないのではないか
2. 読書効果が実在するとしても、教育によって読書効果は変化しないのではないか
8.2 【原則1】 平均的には効果は穏やか。気長に気楽に。
読書効果のことなど忘れて気楽に読書とつき合うことが極意
8.3 【原則2】「 読みすぎ」は弊害を生む。目安は1日30分~1時間。
生活のために必要な活動を削るほど読書をすることは、やはり健全ではない
時間はあくまで目安の設定。その時間を守ろう!という話ではない
自分の生活や性格、そして今の目標などに照らして、読書活動に投じる時間を意識的に調整するのはどうか
8.4 【原則3】 個人差は大きい。読書そのものが合わない人もいる。
合う人は、読書のススメを行えば良い。それ以上の手出しは無用
本人が読みたいものを読み、楽しみのための読書をすることが、読書活動の習慣化と読書効果の享受においてプラス効果を最大化させる方法なのである。
8.5 本書から提案できる読書教育とは
既存の信念(科学的には妥当と言えない)
読書は他の活動に比べて特別に効果的であり、教育には絶対不可欠である
子どもはみんな読書をするべきで、保護者・教師の情熱と創意工夫さえあれば、子どもは誰でも読書を喜んでするようになる
本書が提案する信念
読書は確かに効果的であるが、その効果は穏やかなものであり、合わない児童・生徒に無理強いするほどではない。他のメディアでの代替も有る程度は可能である
読書が好きだとしても、子ども時代の貴重な時間は有限である。読書もしつつ、他の活動にも目を向けよう
読書が苦手だという児童・生徒は必ずいる。程度に応じて読書への依存度を下げ、他のメディアでの代替を勧める。そのことが自分の得意なメディアを探すことにつながる。
おわりに──読書の“穏やかな”力を享受していくために
読書だけが持つ魅力
文字表現の独自性
コンテンツの差異
文字主体に起因する負荷
主体的で自己ベース
整然・静謐性